
Glenn Williams
MUSIC WRITER IN JAPAN

ALBUM
CHAS CRONK
LIBERTY
Renaissance Records
Chas Cronk
チャス・クロンク
Liberty
1980年代、レコードを手に取ると、クレジットに「Chas Cronk - Bass」の表記がないものはないように思えた: リック・ウェイクマン、スティーブ・ハケット、ゴードン・ギルトラップ、その他大勢がそうだった。10年という短い期間に放送されたテレビ番組「ガスタンク」をご覧になった方は、チャスはハウスバンドでベースを弾いていたので、その時代の偉大なロッカーたちと一緒に演奏することができたと分かっただろう。それとともに、ストローブスの長年のメンバーであったことは、最もよく知られている。
ベテランである彼が新しいアルバムをリリースするのは当然のことと言える。驚きなのは、これが初のソロアルバムであるということだ。2つ目の驚きは、あらゆる意味でのソロアルバムであることだ。彼なら多くの仲間を呼んで協力させることができたことは間違いないのだが、チャスはこのアルバムの作曲、録音、プロデュースを自ら選択したのである。楽器のレパートリーに加えて、ベースだけでなく、ギターやキーボードも弾き、歌も歌っているのだ。初のソロアルバムを全部一人でやってしまうなんて無理じゃないのか?そんなことは微塵もない。チャスは、あなたを暖め、喜ばせ、魅了し、感動させるレコードを作り出したのである。
収録された10曲は、プログレの系統でもなく、フォーク・ロックでもない、過去50年間の彼の音楽への貢献から期待されたものである。シンプルなメロディ、ゆったりとしたテンポ、そして楽器が前面に出てきても決して影を落とすことなく、曲に貢献するようなアレンジの作品なのだ。どの曲も性急ではなく、過不足もない。彼の選ぶ音は、浮遊感や漂流感を与え、歌詞は前向きで、すべてポジティブだ。アルバム全体が希望に満ちている、高揚している。最近、そういうアルバムがあると嬉しいものだよね。
公正を期すために、彼の仲間からの貢献もいくつかあることを記そう。70年代からストローブスのメンバーだったデイヴ・ランバートが「A Splash Of Blue」のギターソロを、同じくストローブスに最近加入したデイヴ・ベインブリッジが「Slipping Downstream」でソロを弾いている。どちらも素晴らしい配置で、同様に、ドラムのメジャー・バルディーニは、タイトル曲で過小評価されがちだが素晴らしい演奏を披露している。チャスの演奏については、すべてにおいて非常に有能であることが分かる。ベースはもちろんだが、小さな例として、「Into The Light」でのシーケンサー、キーボード、ギターの組み合わせは、ここ数年の(コロナ禍での)外出禁止期間よりもずっと長くそれらの楽器に手を出してきたという自信と成熟を感じさせるものだ。彼のソングライティングも特筆すべきものがある。彼はストローブスのアルバムに参加した時から貢献しているが、ここでは、まとまりがあり、気持ちのいい曲を書き上げることができることを堂々と証明している。
聴き進めると、なぜチャスが初のソロアルバムを作るまでにこれほど時間がかかったのか、不思議に思えてくるはずだ。その答えはチャスにしか分からないことだが、私は今回のリリースで、この先もまだまだ彼のソロアルバムは続くと確信している。
Track List
Liberty
Take My Hand
A Splash Of Blue
Everybody Knows
Flying Free
Into The Light
Slipping Downstream
Away
System Overload
Reverie

マーカス・キング
ビルボード東京
2023年4月18日、ファーストショー
ビルボードのステージには機材が積まれている。ハモンドオルガン、フェンダーローズ、6本のギター、4段のオレンジアンプとキャビネット、ドラムス、ベースなど。このセットアップとアンプに置かれた数本のビール、そして開演前のPAから流れるブルース・クラシックのセレクションは「オールドスクール・ロックンロール」と言われ、1時間10分に亘って、まさにその通りの演奏が行われた。そのクラシックの最後の曲(J.ガイルズの「Ain't Nothing But A House Party」)をやり終えて、8人組のバンドはステージに留まり、観客から非常に大きく暖かい歓迎を受けることになるのだ。
マーカスと彼のバンドは、混乱することはない。ほとんどのバンドは、自分たちと観客を温めるために2、3曲を様子見で始めるが、このバンドは、観客が知っている、いきなりガツンと来るロックで始めるのである。このオープニングは、一度にたくさんの素晴らしい音楽性が繰り広げられるため、ステージのあちこちに視線を向けなければならないほどだ。やがて視線は彼自身に落ち着き、ギターとヴォーカルの両方から溢れ出る感情の量に驚愕することになる。彼は純粋な心で自分のすべてを捧げ、音楽に完全に没頭している。バンドは既に燃えていて、マーカスはその炎を煽っている。信じられないことに、お開きの時間になるまで、その勢いは止まらないのだ。
マーカスの口数は少ない。しかし、彼に会いに来た人たちは、それでいいのだ。マーカスは音楽に任せて、『Rescue Me』や『Beautiful Stranger』の演奏で大いに語る。ギターのフレーズで叫ぶのだ。バンドは、静かなパートでも決して手を緩めることなく、常にお互いを観察し、マーカスからの合図を受けて、爆音化していき、観客が喝采を送るのを待たずに次の曲へと突入していく。音楽的には電撃的なもので、何よりもマーカスの素晴らしいソウルフルな歌声が印象的だ。過去の苦悩を歌う時の感情の深さは息を飲むほどであり、またある時は、赤ん坊を眠りに誘うような甘い声も出す。
結論から言うと、マーカスはステージ上で100%純粋な感情を持っている。彼のバンドは、それぞれが他のバンドに劣らず、アンサンブルとして最高のものの一つである。マーカスと一緒に、境界線を知らないユニットとして、音楽が連れて行くところならどこへでも行くつもりのようだ。
ライブは、これ以上ないほど素晴らしいものだ。