NENEH CHERRY

ビルボード東京

2019年8月19日、ファースト・セット

ネナ・チェリーほど豊富なキャリアを持つシンガーはなかなかいない。パンクロックのガールズバンド、ザ・スリッツのバックシンガーとしてキャリアをスタートした彼女は、その後自身のソウルフルなボーカルをしてポップス、ジャズ、アヴァンギャルドを融合したカテゴライズ不可能なバンド、Rip Rig + Panicのメンバーとなった。1989年には初めてのソロアルバム『Raw Like Sushi』 をリリース。「Buffalo Stance」は世界的なヒットとなった。この曲は現在ではヒップホップ、ダンスポップ、フリースタイルにカテゴライズされている。それから30年後にリリースした彼女の最新アルバムは『Broken Politics』で、レコードショップでは「トリップホップ」のジャンルに入れられている。

 

今宵、ネナのステージには、まるでNASAが保有したいと思うような機材の数々がラインナップされていた。新旧の楽器もあれば、2台のコンピューターを操るオペレーターが二人(一人は彼女の夫キャメロン・マクヴィ)、バックコーラスも務めるコンガとティンバレス担当のパーカッショニストが一人、エレクトリックドラムが1台、ベースもプレイするハーピスト、そしてなぜか不機嫌そうにプレイしていたベーシスト。彼は後には3台目のコンピューターも操り、断続的にノイズを発していた。効果音の洪水の中で、ネナの声は際立ち、『Broken Politics』収録ナンバーのシリアスなストーリーを歌って聴かせていた。このアルバムからのナンバーは今宵のセットリストの半数以上を占めていた。各曲はライブらしく活き活きとした流れを作り、古い曲(例えば「Woman」)もこの流れを遮らないようなアレンジが施されていた。オーディエンスの中の純粋なファンには、恐らくこうしたアレンジは好まれなかっただろうが、それはコンサート全体の雰囲気を維持するものであったのだ。

 

ネナのキャリアや様々なジャンルにおける名声から判るように、音楽的には驚くべきムードに満ちた一夜だった。それはまた、目まぐるしい旅を体験させるような照明システムによっても強調されていた。ビート、リズムは時に動悸のように高鳴り、うねり、会場を漂った。オーディエンスはそのたびに体じゅうを揺り動かしていた。ラストの「Buffalo Stance」では遂にピークに達し、足踏みまで出るに至った。この曲でもまたアレンジはかつてとは異なっていたのだが、この新しい形になってさえこの曲はあの時代を象徴する曲の一つのままであった。ネナがステージ中に発した言葉に、「ノスタルジーとは無縁なの。」があった。彼女のファンも然りだった。彼女は古い曲と同じくらい新曲を楽しんでいたことは間違いない。バンドは満面の笑みでステージを務めていた。

 

ネナを一つのカテゴリーに収めることはできない。様々なスタイルを超越した彼女の音楽は万人に好まれるものではないかもしれない。様々なカテゴリーの音楽をカバーしてきた彼女自身がカテゴライズできないというのも皮肉なことだが、もはや彼女だけのフィールドにいる人と言う他はない。

 

<セットリスト>

Fallen Leaves

Shot Gun Shack

Deep Vein Thrombosis

Woman

Kong

Synchronized Devotion

7 Seconds

Manchild

Faster Than The Truth

Natural Skin Deep

Buffalo Stance

IOCC

ビルボード東京

2019年1月27日、ファースト・セット

グレアム・グールドマン 
リック・フェン 
イアン・ホーナル 
キース・ハイマン 
ポール・バージェス 

 

オリジナル・メンバーがグラハム・グールドマンたった一人だからという理由で、10CCのようなバンドを見逃している人がネット上の書き込みを見ても何人も存在している。しかしそれはスタジオ録音時のバンドの話だ。ライブともなれば、サポート・メンバーを加えるのが常である。彼らの場合、1973年に在籍していたドラムのポール・バージェスと1976年に在籍していたボーカル&ギターのリック・フェンの二人がそれに当たっている。本当のオリジナルだったのは、1972年までだ。そういう意味では、このバンドはほぼオリジナル・メンバーによるライブバンドだと言える。

 

1970年代を振り返ると、バンドのエンジニアリング技術やレコーディング経験によって10CCのアルバムをライブで再現することは困難だった(メンバーが頻繁に替わったバンドゆえに)。しかしテクノロジーの発達により、それが容易になった。今宵、目の前にいる彼らは、40年以上に亘る活動歴を誇るこのバンドの往年の楽曲を最高の状態で聴かせてくれるバンドだったのである。どのくらい良かったか、って?全身の血が沸き立つほど良かったよ!まず言っておきたいのは、彼らは確かにテクノロジーを活用していたが、それが決してパフォーマンスを壊していなかったことである。4人のボーカリストは4声のコーラスを見事に決めていたし、その最高の形はアンコールにドゥーワップ風のアカペラ・バージョンでプレイされた「Donna」で証明された。2本のアコースティック・ギターとベース、パーカッションをバックに会場じゅうに響き渡った「I’m Not In Love」のボーカルコーラスも見事に際立っていた。

 

彼らはロックバンドとして健在だった。レパートリーは多岐に亘った。ロック、ドゥーワップ、バラード、レゲエ、ポップス。音楽を一つのジャンルに留めることの無意味さを彼らは我々に示してくれたと言える。ミュージシャンシップというものが、単に楽器を上手く演奏すること、楽器を曲に合わせて使い分けること、過去のヒット曲を巧みに再現することだけではないことも彼らは示してくれた。個人的には、このコンサート時間を考えた場合、ベストなセットリストではなかったと思っている。各曲とも演奏前には紹介アナウンスが入れられ、会場の中からはそれを歓迎する拍手や歓声も起こっていたが、それは単にそうした少数派の好みに合っていただけのことである。

 

2019年版10CCは、過去最高のライブバンドであったことは疑いないだろう。それをテクノロジーのおかげと言い切るのは簡単だが、私はテクノロジーの助けを借りながら、何十年に亘るバンド活動の重みを発揮できたからこそだと考えている。あなたがどう感じようとも10CCはイギリスの音楽史を改革したバンドの一つであることは間違いない。チケットが完売だったのも、彼らの成し遂げた音楽ゆえのことである。もし次回、彼らがやって来るなら、是非観に行ってもらいたい。どれほど素晴らしいかを確認するために。

 

<セットリスト>

Wall Street Shuffle

Art For Art’s Sake

Life Is A Minnestrone

Good Morning Judge

The Dean And I

The Things We Do For Love

Silly Love

I’m Mandy Fly Me

I’m Not In Love

Dreadlock Holiday

Encore

Donna (A Cappella)

Rubber Bullets

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